官能小説~女子的夜話~

官能小説~女子的夜話~

【第17話】女子トイレ (前編)

2014.6.19

1年生の女子が、先生に頼まれて視聴覚室へ資料を取りに行く途中、あまり使われていない北校舎のトイレに寄った。4つのうち1番奥の個室は使用中だったので手前の個室で用を足した。立ち去る時も奥の個室は閉まったままだった。女子生徒が手を洗っている間、妙に緊張感のある不自然な静けさがあったという。

視聴覚室から職員室へ戻る時、気になってもう一度女子トイレを覗くと、1番奥の個室はまだ閉まっていて、中から苦しそうな女の呻き声が聞こえた。

女子生徒は怖くなって逃げ出そうとしたが、荒い息遣いと共に「イク…」という小さな喘ぎ声が聞こえたという。加えて、ピチャ…ッという水っぽい音も。

女子生徒は顔を赤らめ、足音を立てないようにして女子トイレを後にした。

「…って話を部活の1年から聞いて、こないだ山本たちが北校舎の女子トイレを覗きに行ったんだって。そしたらほんとに奥の個室からオナってる女の声聞こえたんだって! ヤバくね!!」

「なんで個室から出てくるとこ見ないんだよ。誰だか気になるじゃん」

「さっきまで喘ぎ声が聞こえてたのに1番奥の個室のドアを開けてみたら誰もいなかったとかいうオチだったりして」

「ギャーッ何それ超怖えー!!!」

僕と田中は大げさに怖がってお互いにひしと抱き合った。その様子を見てクラスの女子がクスクス笑う。

エロ話大好きな田中、オカルトに興味のある峯岸、ただただ興味本位な僕の3人で、帰りに北校舎へ行ってみたが、女子トイレの個室は全て空だった。

デスヨネーと僕と峯岸は顔を見合わせたが、田中だけは「ボイスメモで録音しようと思ってたのに」と、未練がましくいつまでも文句を言っていた。

僕は今日中に数学のプリントを再提出しなければならなかったので、2人と別れて西館の数学準備室に寄った。準備室に先生は誰もいなかった。ただ1人、クラスメイトの和泉という女子が僕に気づいて振り返った。

「今、先生たち会議中だから机の上に置いておいてって」

「あ、そうなんだ、サンキュ」

和泉は地味なタイプで、教室ではたいてい1人で行動していた。和泉はメモ用紙に「再提出の皆さんへ プリントは机の上に置いておいて下さい」とマジックで書いた。きっと先生に代筆を頼まれたのだろう。綺麗な字だった。なんとなく書き終わるのを待っていると、

「北校舎のトイレ、誰かいた?」

和泉が突然、沈黙を破った。話したこともない上に普段から無表情なので何を考えているのかいまいちよくわからない。

「あ、え、なんで知って…?」

「昼休みに大声で話してたから」

「あーそっか、いや、誰も」

「あれ、私なんだ」

「はっ?」

「視聴覚室の近くの女子トイレでオナニーしてるの、私だよ」

まっすぐ僕を見て言った。

「してるとこ、見せてあげようか」

目を白黒させている僕とは対照的に、和泉は涼しげな表情だ。

ドッと嫌な汗が出て喉がカラカラに乾いた。やっと絞り出せた言葉は「ほんとに…?」の一言だった。

「その代わり、君のオナニーも見せてね」

そう言って和泉が少し微笑んだ。笑うところを初めて見た気がする。

「こっち」と、手を引かれるまま数学科の準備室を出る。連絡用通路の脇にある教員用女子トイレの個室に僕を招き入れ、鍵をしめた。

(え、ここはさすがにヤバくね?)

(大丈夫、ここ北棟のトイレより人少ないから)

ふいに顔に吐息がかかり、和泉の顔がすぐ近くになった。ビックリして目をつぶってしまったが、すぐに柔らかな唇を押し付けられたので和泉がキスしてきたのだとわかった。身体の芯がカッと熱くなる。ファーストキスなのに全然甘酸っぱくない。

(んっ、む…んん…っ)

生温かな舌が優しく滑り込んでくる。おそるおそる舌を絡ませると、和泉はもっととせがむようにあごを上げた。

(はぁっ…んっ)

潤んだ目で俺を見上げる和泉は、大胆で必死で切なげでエロくて、教室にいる時とは別人みたいだった。

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藍川じゅん

元ピンサロ嬢。アダルト誌にてコラム連載中。著書『大好きだって言ってんじゃん』(メディアファクトリー)が好評発売中。




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