官能小説~女子的夜話~

官能小説~女子的夜話~

【第27話】女の子願望 (前編)

2014.11.20

赤ちょうちんの居酒屋に、若い女が1人で飲みに来ているのをちらほら見かける。「おひとりさま」というやつなのだろう。疲れたおっさんたちの憩いの場にミニスカートの女が現れるのは、正直目障りだ。

今も、カウンターの反対側で60代くらいのおっさんが、隣の若い女に話しかけて乾杯などしている。

女は満更でもないようで、ニコニコと対応していた。

「他にチヤホヤされる場所がないからってこんなところにまでしゃしゃり出てくんなよな…」

と、思わず舌打ちしてしまう。

ホッピーのナカを注文して、レジの上に設置されたテレビを眺める。

ニュース番組のランチ特集で、女子アナが「美味しーい」と片手で口を覆った。

その一瞬の表情が、自分の上司に似ていて、気持ちが曇る。

俺の上司は、美人でコミュニケーション能力は高いのだが、どうも仕事の詰めが甘く、面倒なミスが多い。

俺は彼女の尻拭い担当として扱われていて、後処理や謝罪などが全て回ってくる。

さんざん怒鳴られて収集がつかなくなり、上司を連れて再び謝罪に伺ったところ、取引先の常務はコロっと態度を変えて柔和な対応になっていた。

何故か俺の連絡ミスということで処理されており、上に報告を怠った上司には何のお咎めもなかった。

女だから・美人だからというわけではない。果たして本当にそう言い切れるだろうか。俺の上司が、ただの人懐こいおじさんであっても、あの常務は同じ対応をしただろうか。

俺だって、もし直属の部下でなければ、彼女を憧れの女性として見ていただろうし、多少のミスも張り切ってフォローしたはずだ。

こんなこと、同じ職場の人には言いにくいし、言ったら女性差別ともとられかねない。

いっそ俺も女だったら。ミスをフォローしてもらえたり、居酒屋で知らないおじさんに奢ってもらえるかもしれないのに。

酔いが回ってきたのか、そんな情けない考えが浮かぶようになっていた。

「熱燗1合お願いします」

すぐ隣で女の声がした。

ふとテレビから目を離すと、化粧っ気のない黒髪のショートカットの女が俺の隣に座っていた。

歳はたぶん少し上で、目つきがキツく声も低いので、ちょっと怖そうだった。

しかし、上司のような甘ったるい喋り方をしないところに好感を持った。

気がつけば、俺は泥酔して隣のお姉さんにクダを巻いていた。

毎日、女上司の尻拭いをさせられ、ミスを押し付けられている、自分も女に生まれたかった、などと取り留めなく話していると、黙って3合目の熱燗を飲んでいたお姉さんが、とっくりを置いて俺の顔をジッと見つめた。

お姉さんの大きく潤んだ瞳に吸い込まれそうだった。

「君、女の子になりたいの?」

「え、あっ、いや…」

俺はドギマギして、うまく答えることができなかった。

「じゃあ、私が本当に女の子にしてあげようか?」

お姉さんが口角を上に上げて微笑んだ。

俺は、何故か胸の高鳴りを抑えられなかった。

都内某所のマンション。俺はお姉さんに言われるがまま、寝室にある大きな鏡台の前に座らされた。

いやらしいことができるんじゃないかという淡い期待と、美人局なのではという不安とで、極度に緊張していた。

鏡の中の顔が強張っている。

「ふふ、怖がらないでいいよ。私の趣味を手伝ってもらいたいだけだから」

お姉さんはニコニコしながら、俺の前髪をピンで止め始めた。

「しゅ、趣味って…?」

「私、可愛い男の子に女装してもらうのが大好きなの」

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藍川じゅん

元ピンサロ嬢。アダルト誌にてコラム連載中。著書『大好きだって言ってんじゃん』(メディアファクトリー)が好評発売中。




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