官能小説~女子的夜話~

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【第35話】「蛙」前編

2015.4.2

「俺、最近南さんが気になって仕方ないんだよ」

バイト仲間の吉田が、ジョッキをテーブルに置いて深刻な顔で言った。

「南さんって、新しいパートの? あの人結婚してるじゃん」

「そうなんだけどさあ、だって南さん話し方とかすげー優しいし、胸でかいし、やっぱり大人の魅力っつーか余裕? みたいなの感じるし、あと痩せてるのに巨乳だしさ」

「お前、おっぱいが気になってるだけだろ」

今日は2人とも早番だったので、バイト帰りに近くの居酒屋へ寄っていつも通り不毛な会話を楽しんでいた。バイト先の店では吉田の方が先輩だが、同い年なので気楽な付き合いをしている。

「女って30過ぎると性欲増すっていうじゃん。ああ見えてすごい淫乱だったりして」

吉田は1人で盛り上がり、キャーッと叫んで顔を両手で隠した。

モテない大学生に勝手な妄想をされて不憫な気もしたが、実は俺も南さんのたわわな胸元を思い出してオカズにしたことがあるので、咎めることはできなかった。

南さんは、俺たちと同じ厨房に先月入ったばかりのパートの主婦だ。仕事を覚えるのも早く、作業が丁寧で、人当たりもいい。そしてぶかぶかの調理服を着ていてもわかるくらいの巨乳だった。

「なあ、南さんそろそろあがる時間だし、ここに呼ばねえ? 金原、お前南さんとLINE交換したんだろ?」

「あれは緊急連絡用だよ。急に呼んだって来れるわけないだろ」

「いいから、誘うだけ誘ってみようぜ」

吉田は僕のスマホを取り上げると、素早く文字を打ち込み、勝手にLINEを送信してしまった。

15分くらいして、「お疲れさまです。私も行っていいんですか? 飲みたい」と返信が来たので、俺と吉田は思わず目を見合わせ無言でハイタッチした。

「はあ、美味しい」

ビールを飲んだ南さんが、嬉しそうに息を吐いた。ニットの胸がはち切れそうだ。私服姿だと、余計エロく見える。

「すみません、急に呼び出したりして」

「ううん、全然。いま旦那が出張中だから、ちょうど外で食べて帰ろうと思ってたんです」

旦那さんが出張中。さっきの「淫乱だったりして」という吉田の言葉が浮かび、思わず息を飲んだ。南さんは今年31歳で結婚4年目。子供はまだいないという。思えば、バイト先以外で南さんと話すのは初めてだった。しばらくは3人で和気あいあいと話していたが、吉田は本人を目の前にしてだいぶ緊張していたらしく、強い酒ばかりあおって早々に潰れてしまった。

南さんもだいぶ酔いが回ってきたのか、肘をついてくつろいでいた。乳房がテーブルの上に乗っていて、扇情的だった。

「金原さんも吉田さんも、彼女いるんですか?」

「い、いや、吉田は最近まで彼女いたみたいなんですけど、俺、実は彼女できたことなくて

「ほんとに? じゃあ、したことないの?」

一瞬「うっ」と言葉に詰まったが、正直に話すことにした。

「女友達と直前まではあるんですけど…いや、はい、まだ童貞です

へえー、と南さんが意味深な相槌を打った。しまった、引かれたかもと思った瞬間、テーブルの下で南さんの足が僕の足に絡みついた。

「彼女じゃない女の子と、こんな風に遊んだりはしたんだ?」

いつもの、バイト先の南さんとはまるで別人のような笑顔だった。大きな瞳の奥にある赤い小さな光が、僕の目をじっと捉えて離さない。ビックリして動くことも、声を出すこともできなかった。蛇に睨まれた蛙とはまさにこのことだ。

ストッキングに包まれた爪先が、僕のふくらはぎから太ももにかけて、ゆっくりなぞっていく。しばらく内腿をなでていたが、やがてパンパンに膨れ上がった股間を優しくさするように刺激した。さすがに耐えきれず、ううっと呻き声をあげると、南さんはさっと足を引っ込めて、

「そろそろお会計しましょうか」

と、店員を呼んだ。急にはしごを外され、ガッカリしたような恥ずかしいような寂しい気持ちになった。

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藍川じゅん

元ピンサロ嬢。アダルト誌にてコラム連載中。著書『大好きだって言ってんじゃん』(メディアファクトリー)が好評発売中。




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