官能小説~女子的夜話~

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【第57話】「アプリ」前編

2016.3.3

友達に勧められて出会い系アプリをインストールした。

「おなかすいた」「疲れた」「ねむい」、私のたわいもない一言に、いろんな人が一斉に反応してくれる。先月まで付き合っていた彼氏は、あまりかまってくれない人で「なんでメールの返信してくれないの?」

としょっちゅう怒ってるうちに、面倒くさがられて振られてしまった。出会い系アプリは、寂しがりやの私にはちょうどいい。「にこ」というハンドルネームを名乗っている時の私は、みんなからの人気者だった。

毎日必ずコメントをくれる「COMさん」という人と、ダイレクトメールでやりとりするようになった。COMさんは、神奈川県在住の32歳、会社員。「遊んでくれる人募集」と書いてある。

アイコンの写真は、俯いているので顔はよくわからない。私の呟きには必ず「いいね」を押してくれて、なにかとコメントをつけてくれたり体を気遣ってくれたりする。下心があるのはわかっていたが、表面的であっても優しくされるのは嬉しかった。

一ヶ月ほどメールでやりとりをして、私たちはデートすることになった。事前のメールに

「全然かっこよくないので、ガッカリしないでね笑」

と書いてあったので、それなりの覚悟をしていたが、実際のCOMさんは想像よりずっとおじさんだった。アイコンの写真では痩せて見えたけど、顔は丸く腫れぼったくて体も大きかった。

肌も、話し方も、服のセンスも中年そのもので、とても32歳には見えない。年齢はもっと上なんだろうと思った。

高級そうなイタリアンで食事して、その後おしゃれなバーに連れていってくれたが、私はCOMさんの連れだと思われるのが恥ずかしくて落ち着かなかった。

見た目はダサいし話もつまらないし、退屈で仕方なかったのに、誘われるままホテルに入ってしまった。自棄になっていたのかもしれない。

風呂から上がって部屋に戻ると、室内のライトが薄暗くなっていた。COMさんの顔を見なくて済むので少し安心した。ベッドに座ると、バスローブ姿のCOMさんが後ろから抱きついてきた。

「ハァッ…にこちゃん、可愛い…可愛いよ…」

と繰り返し囁く。耳元に荒い息がかかって、不快だった。顔が見えてないのに可愛いとか言ってんじゃねえよと内心毒づいたが、首筋お尻を優しく弄られると、体がピクンと素直に反応してしまう。

「うっ…ん…いや…ぁ」

いやなのに、気持ち悪いのに。私は、こんなおじさんにいいようにされているという現実そのものに興奮していた。

COMさんは私を押し倒すと、体に巻き付けていたバスタオルを外した。「綺麗だよ」とまだ寝言みたいに呟いている。

チュパチュパとAVみたいな大袈裟な音を立てて乳首に吸い付く。おじさんのガサガサした唇と汚らしい舌が、私の乳房を臭い唾液まみれに舐め回していると思うだけで、背筋がゾクゾクした。

「はぁっ…ん、もっと…もっと舐めて…全部汚くして…

「ああっ…にこちゃん、感じてるんだね、乳首がビンビンに勃起してるよ」

「あんっ…んっ、COMさんに舐められるといつもより興奮しちゃうのぉ…」

こんな男にまで媚を売る自分に吐き気がする。しかし、誰かに強く求められているという安堵感が、嫌悪を上回っているのは確かだった。髭が生え始めて青くなった口元をすぼませ、乳輪ごと口に含んでチュウゥと下品な音を立てた。

「あぁっん…!気持ちいい…もっと汚して欲しい…」

私は硬くなったCOMさんの男根を根元から掴み、誘うように腰をくねらせた。淫売だと口汚く罵られたかった。

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藍川じゅん

元ピンサロ嬢。アダルト誌にてコラム連載中。著書『大好きだって言ってんじゃん』(メディアファクトリー)が好評発売中。




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