官能小説~女子的夜話~

官能小説~女子的夜話~

【第31話】「陰と陽」前編

2015.2.5

いつもは必ず断っていた二次会のカラオケに、強制参加させられた。

社員の先輩に「今日女性少ないからお願い!」と手を引っ張られ、断る余地がなかった。

私のような陰気臭い女がいては、場の空気が悪くなってしまうのではないかと危惧したが、カラオケは無事に盛り上がった。

私はドリンクの注文係に徹し、なんとか数時間をやり過ごした。

深夜1時近くにやっと解散となり、三次会へ向かう男性数名以外は、数台のタクシーに分かれた。

個人タクシーに乗り込み、運転手に行き先を告げると、営業部の大島課長が、

「あっ、そのタクシー板橋方面? 俺も乗せて!」と叫んで、座席に滑り込んできた。

「ごめんごめん、牧野ちゃんも同じ方向だって聞いたから」

大島課長は明るく笑った。課長はノリが良く仕事もできるので社内で人気者だ。

私のような地味な派遣の事務員は、遠くから眺めるだけで話す機会もなかった。

「珍しいね、牧野ちゃんがこんな時間までいるなんて。いつも一次会で帰っちゃうよね」

「あっ、は、はい、カラオケ、苦手なんで」

「そっかー。でもえらいよね。みんなのドリンクに気を配って注文してくれて」

見られてたんだ。と思うと顔がカッと熱くなる。

しかし、気配りしていたのは私よりもむしろ大島課長の方で、盛り上げたりビールをついだりしてほとんど動き回っていた。

「カラオケ苦痛じゃなかった? 遅くまで付き合わせちゃってなんか悪かったね」

顔を覗きこまれ、ますます挙動不審になる。

優しいし顔もいい。さぞモテるのだろう。

女性社員から「遊びで付き合うなら大島さんがいい」と人気な一方、「結婚したら浮気しそう」とも評されている。

明治通りを北に進み、大きな交差点に差し掛かるころ、大島課長が窓の外を見ながらふいに呟いた。

「俺、やっぱり池袋で降りようかな」

理由を聞いていいのか分からずチラと覗き見すると、課長はそれに気づいて苦笑した。

「あ、なんか飲み足んないから、ちょっと飲んでから帰ろうと思ってさ」

「……」

私も行きたい、と喉まで出かかったが言えなかった。

飲み足りないというのは口実で、

実は私と同じタクシーに乗っているのが耐えられないだけかもしれないからだ。

「もし時間まだ大丈夫なら、牧野ちゃんも一緒に飲む?」

「えっ」

思いがけない言葉に、体が固まった。「私なんかでよければ」の一言が、詰まってしまってなかなか言えなかった。

その後、雰囲気のいいダイニングバーで乾杯をして、よく笑いよく話したのは覚えている。

しかし、何を話したかのか、どのくらい飲んだのか、いつどうやって移動したのかも分からない。

ひどい二日酔いも、記憶をなくすまで泥酔したのも初めてだった。

さらに言うなら、目が覚めたとき隣で男が寝ていたのも、生まれて初めてだった。

横で寝息を立てているのは、紛れもなく大島課長だ。

ラブホテルの床に、私と課長の服が散乱していた。私は全身の血の気が引いていくのを感じた。

この状況は何だ。

とにかく服を着なければと布団から飛び出そうとすると、寝ていたはずの大島課長が私の腕を掴んだ。

寝ぼけた様子で「おはよう」と言うと、そのまま腕をグイと引っ張って抱き寄せ、私の胸に顔を埋めた。

目を閉じたまま、赤ん坊のように私の乳房に吸い付いた。

「やっ、お、大島さん、あのっ」

柔らかな唇で乳頭を刺激されるのがくすぐったくて、身をよじらせた。

大島課長は両手で乳房を揉んだり、軽く指先でつまんだりしながら、勃起した乳首を優しく舐め続けた。

もともと男性経験が少なく、前戯の短い人ばかりだったので、こんな風に乳房を長く攻められるのは初めてだった。

「ああっ、待って、そんなにそこばっかり舐めちゃ」

私の声が甘くなると、大島課長の目が開き、悪戯っぽく笑った。

「ゆうべは自分から舐めてって言ってたよ。ここ好きなんでしょう?」

「え、嘘…そんなこと」

言うはずがない。でも、確かに身体は恥ずかしいくらいにビクビクと反応し、高まっていた。

私は腰を浮かし、自分の陰毛に手を伸ばしていた。

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藍川じゅん

元ピンサロ嬢。アダルト誌にてコラム連載中。著書『大好きだって言ってんじゃん』(メディアファクトリー)が好評発売中。




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