「斉藤さん、いつ私とセックスしてくれるの?」
エマさんが、酔った目を潤ませてカウンター越しに僕の顔を覗き込んだ。からかっているだけだとわかっていても、ついその唇に引き込まれそうになる。
小さなバーやスナックが並ぶ雑居ビルの細く急な階段を上がると、5人座れば満席になってしまう小さなバーがある。店員はカウンターにひとりしかおらず、毎日日替わり。ヒゲ面のアーティスト風の男がシェイカーを振る日もあれば、若くて好奇心旺盛な女の子が話し相手になる日もある。
エマさんは、毎週火曜日のカウンターを担当している熟女だ。いつもヘラヘラ酔っぱらっていて、営業中に寝てしまうことがたびたびある。しかし、泥酔客やしつこい客を軽くいなして帰らせるのがうまく、ああ見えて昔は銀座のクラブでブイブイ言わせていたらしいと、常連客の一人が噂していた。
彼女のゆるい魅力にひかれ、僕は火曜日に通うようになった。エマさんは、僕の顔を見るたびに「斉藤さん、筆下ろしさせて」とからかうのがお約束だった。
その日は珍しく、日付の変わる0時前から客足が途絶え、閉店間際には店内は僕とエマさんだけになってしまった。
「もうお店閉めちゃうね。斉藤さん、まだ飲んでてもいいよ」
エマさんは看板を取り込み、よろよろと閉店準備を始めた。カウンターの中を片付けて売上をまとめ、空の酒瓶を店の外に出すと、ガチャリと鍵を閉めてしまった。
「え、僕もう帰りますよ!」
「いいじゃん、もうちょっとゆっくりしていきなよ」
そう言うと、エマさんは僕の膝の上に対面して座り、首に両手を回した。
「ちょっとどこ座ってんですか!」
僕の張りつめた股間に、自分の股間を押しつける。彼女の内腿は熱く、スーツ越しにその温もりと重みが伝わった。いつもカウンター越しに見る彼女の厚い唇がすぐ目の前にあった。
エマさんは「セクキャバごっこ」と言ってゲラゲラ笑った。
「からかうのもいい加減にして下さい。僕だって一応男なんですよ!」
思っていた以上に、鋭い声が出てしまった。こんなに密着されると、いつもの冗談を受け入れる余裕すらなくなってしまう。
「ごめん、こういうことされるの嫌いだった?」
エマさんは素直に謝った。しかし、まだ膝の上だ。
「嫌いなわけじゃないけど…」
「けど?」
「触りたくなるから、やめて欲しいです…」
恥ずかしくて視線をそらしたが、エマさんが優しく微笑んでいるのがわかる。
「私は、斉藤さんに触ってもらいたいと思ってるの」
そう言って、エマさんは僕の両手をとり、自分の胸に押し当てた。
形のいいおっぱいが、手の中に収まる。柔らかくて温かい。両手でゆっくり揉みしだくうちに、僕の股間はさらに固くなり、エマさんの恥骨を刺激した。
「い、いいんですかこんな…」
「いいの、もっとちゃんと触って」
と、自分でカットソーをまくし上げ、ブラジャーのホックを外した。目の前に現れた生のおっぱいを、おそるおそる揉んだりつまんだりしていたが、薄茶色の乳首が立ってきたのをみて、思わずしゃぶりついてしまった。
「あぁっ…ん」
エマさんのあえぎ声は、いつものハスキーな声と違って甘く可愛らしかった。唾液を多く使い、じゅる、じゅるるっとわざと音をたてる。
「あ…ん、気持ちよくなっちゃう」
乳首を甘噛みすると、「くぅ…っん」と吐息を漏らし、腰をくねらせた。この体勢だと2人の股間が近すぎて、すでに挿入しているかのような錯覚に陥っていた。
「ね、もう我慢できなくなっちゃった。おちんちん挿れちゃおうか」
エマさんが耳元で囁く。
「え、でもまだなんにも…」
「そんなの、後でゆっくりやればいいよ」
いかにもエマさんらしい返答に、思わず笑ってしまった。
藍川じゅん
元ピンサロ嬢。アダルト誌にてコラム連載中。著書『大好きだって言ってんじゃん』(メディアファクトリー)が好評発売中。