誘われるがままに、ベッドに腰をかけた。
再び優しくキスしながら、陰茎を手でしごく。
「クリトリスぐちょぐちょだよ。もう硬くなってきちゃった。すごい淫乱なのね」
「あっあっ、あっ」
甲高い声を抑えることができなかった。
ねばねばになった人差し指と親指を、わざと俺の目の前でつけたり離したりした。
「ほら、こんなにガマン汁がいっぱい出てる。恥ずかしくて興奮しちゃった?
この姿を大勢の人に見られてるって想像しただけで
クリトリスびんびんになってたもんね。変態だもんね」
「変態」という言葉に、カッと顔が熱くなった。
もしかすると、俺はずっとそう言われたかったのかもしれない。
「変態クリ●ンポ、私がもっと気持ちよくしてあげるね」
「はい…」
俺はうわ言のように「気持ちいい…気持ちいい…」と繰り返しながら
いつしか涙目になっていた。
こんな格好をさせられて辱めを受けているのに、反応している自分に絶望した。
そして、それ以上に大きな歓びを感じていた。
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騒がしいオフィスに、電話の音や慌ただしくキーを打つ音が響く。
俺の上司は、昼休みがとっくに終わっていてものんびり歯を磨いてから着席する。それを咎める者はいない。
「あ、やだどうしよう、これまだやってなかった」
取引先からの催促のメールが来ていたのか、メールチェックした途端に青ざめていた。
ファイルから必要な書類と資料を取り出し、
「これ、明日朝までに大至急ねー」
と言って、俺の机の上にドンと放り投げた。
最近では「お願い」すら付けなくなった。俺は上司の顔も見ずに
「今それどころじゃないんで、他のチームに回してもらえます?」
と、紙束をつっ返した。彼女は、キョトンとしていた。
「え、急ぎの案件なんだけど」
「リーダーの担当ですよね、ここ。俺、●●の処理で手一杯なんで」
にべもなく断ると、上司はあからさまに不機嫌になってパソコンに向かった。
約束があるとか体調が悪いとか言って、いつも俺に仕事を押し付けて定時で上がってるんだ。
今日ぐらい徹夜で仕事したって問題ないだろう。
ふと、ファイル棚のガラスに映った自分と目が合う。
スーツを着た男ではなく、栗色の髪の美女が映っていた。
珍しく電話で怒られている上司をチラリと盗み見て、思う。
俺はあんたよりずっと美しい、と。
メールの着信音に気付いてスマホのロックを解除する。
あの日、俺に女装させてくれたお姉さんからだった。
「今日、ちゃんと服の下にいやらしい下着つけてきた? 後でじっくり見せてね」
スーツの内ポケットを探るふりをして、中を覗くと白いワイシャツからピンク色のブラジャーが透けている。
誰にも見つからないように、そっと笑みを浮かべた。
藍川じゅん
元ピンサロ嬢。アダルト誌にてコラム連載中。著書『大好きだって言ってんじゃん』(メディアファクトリー)が好評発売中。