私が高校に入ると、兄は家に彼女を連れてくるようになった。
何人か違う女の子を見かけたので、どうやらそこそこモテるようだ。
私は無関心を装っていたが、あの部屋で兄がセックスしていると考えるだけで、
足の間の小さな芽が膨らむのがわかった。
その頃、私は男の体に興味津々だった。
エロ本だけでなく、家のパソコンでエロ動画も見ていたし、
風呂上がりの兄をチラチラと盗み見たりしていた。
兄は、小学校から高校まで野球で鍛えていて、たくましく引き締まった体をしている。
私も、いつかあんな体の男と裸で抱き合うのだろうかと妄想しては、毎日悶々としていた。
その日も、家族が誰もいない時間帯を狙い、兄の部屋に忍び込んだ。
押入れの下段に潜り、本棚の裏に手を伸ばす。
四つん這いのまま後ろ向きで戻ろうとした時、階段をあがる足音が聞こえた。
押入れの中にいたせいで、玄関のドアを開ける音に気がつかなかったのだ。
今慌てて飛び出したら、兄の部屋から出た瞬間を目撃されてしまう。
全身から嫌な汗がドッと吹き出した。
どうする? なんて言い訳する? と頭を巡らせていたが、
兄と女性のが聞こえた瞬間、目の前がまっくらになって体が動かなくなってしまった。
「こないだのあれ、どうだった?」
「あー、大変だったよ、あの後。竹内がさあ…」
兄と彼女は、部屋に入ってからも、くつろいだ様子で世間話を続けた。
私は、押入れの中で息を潜め、体を縮こまらせていた。
緊張のあまり、全身が冷たくなっている。
ステレオから音楽が流れ始めたが、取り留めのない会話は途切れることがなかった。
二人はだいぶ仲がいいようだ。
「早く帰って欲しい」
「部屋から出て行って欲しい」
という気持ちと、
「どうせやるなら早く始めて欲しい」
という両極端な気持ちがせめぎあっていた。
どのくらい時間が経ったのか、皆目わからなかった。
押入れの中は、数分が数時間に感じられた。
やがて、ベッドのスプリングがきしむ音と共に、不自然な沈黙が訪れた。
「あ…妹さんに聞こえちゃう…」
「音立てなければ大丈夫だよ」
やん…ダメだって」
兄を制する彼女の声に、緊張感はなかった。
共犯者たちがクスクス笑っている声が聞こえる。
「はぁ…っ、んんっ…」
やがて、ピチャ…ピチャ…という体液の音が聞こえ始めた。
「あ、やあっ…そんな音たてないで…」
「いつもよりすげー濡れてる。興奮しちゃった?」
「や…あん、恥ずかしい…」
「うちの妹、隣の部屋で聞き耳立ててるかもよ」
「ふふ、やだ…あんっ」
残念ながら、妹は隣の部屋ではなく同じ室内にいた。
私は、音を立てないように細心の注意を払いながら、そろそろと自分のスカートに手を伸ばした。
すぐ近くで、男のゴツゴツした手が、柔らかな肉を撫でている。
女の生々しい喘ぎ声が聞こえる。
私は、興奮でどうにかなってしまいそうだった。
「ああー、やばい…どんどんよくなっちゃう…」
「あーすげえ気持ちよさそう、もっと顔見せて」
「や、だめえ…そこ、弱いとこだから…っ」
「いいじゃん、いきなよ」
「あ、あ、だめ…、声、声…っ我慢できないから…っ」
「大丈夫、大きい声だしていいよ」
「だめ、ほんとだめ…! や、あっ、あっあっっ」
「深雪ちゃん、いって、我慢しないで」
「あーっ、んんっ…い、いっ、い…っっ!!」
声を押し殺したのか、手で口を押さえたのか、絶頂の瞬間の声は聞き取れなかった。
彼女の声に合わせて、パンツの上から肉襞の間を擦った。
愛液が溢れ、押入れの床に垂れてしまいそうだった。
「見つかったら取り返しのつかないことになる」とわかっているのに、
手を止めることができなかった。
藍川じゅん
元ピンサロ嬢。アダルト誌にてコラム連載中。著書『大好きだって言ってんじゃん』(メディアファクトリー)が好評発売中。