24時間営業のスーパーで、半額シールのついたプリンに手を伸ばそうとした時、名前を呼ばれた。
スーツの男が黄色いかごを持って立っている。企画部のF課長だ。最寄駅が一緒だが、駅や電車で偶然見かけても軽く挨拶するだけだった。スーパーで会うのは初めてだ。
今帰り?はい、ちょっと急ぎの仕事が入って。あー山口さんのチームのアレ?そうです。大変っすね。そうっすね。
F課長は、男前だが少しぞんざいな話し方をする。総務や経理の女の子たちからは意外と人気があって、たまに笑うと目がクシャッとなるのが可愛いともっぱらの評判だ。
「そういえば、君、お酒飲めるほうだっけ?」
ビックリして小さくのけ反りながら「飲みますけど」と言った。
「うちにもらったシャンパンが1本あるんだけど、よかったら持ってかない?ずっと冷蔵庫に入ってて邪魔なんだよね」
「あっ欲しいです、飲みたいです」
課長が「そうすか」と言って目を細めた。あ、笑ったと思う。社内でも押し殺すような笑い方を時々している。
課長のマンションまで取りにいくことになった。夜更けの国道は車ばかりで人影がまばらだ。スーパーの袋を持って横に並んで歩いた。カップルみたいで照れ臭い。
小奇麗な1階のエントランスで待っていると、ボトルを手にした課長がエレベーターから降りてきた。
「あ、ペリエ・ジュエだ。これ美味しいですよね」
「へー」と、興味なさげな相槌を打つ。
「フランスでは、このお酒を飲むといいことがあると言われています」
「あ、そうなんだ」
「嘘です」
今度は押し殺さずにハハハと笑った。
「意味わかんねー」
「でも、せっかくの美味しいお酒なのに一口も飲まないなんてもったいないですよ」
あー、うん、まあ、そうなんだけどなあ。歯切れ悪く呟いた。
「じゃあ、飲むの手伝ってくんない?俺1人じゃ飲み切れないから」
内心「あっラッキー」と思ったが、恥ずかしいので顔には出さないようにした。
5階の1DKに通された。家具はどれもシンプルで、必要最低限のものしかない。
F課長は1杯飲んだだけで首まで真っ赤になった。酔うと笑い上戸になるらしく、会社の人の話や他愛もない話で何度も笑い転げた。
Tシャツとスウェットに着替え、両手を床につけてくつろぐ姿は無防備で色っぽかった。
午前1時を過ぎた頃、手洗いを借りて戻ると、課長が背中を向けて横たわっていた。
「床で寝ると風邪ひきますよ」
反応がないので肩を揺らすと、急に寝がえりを打って腕を掴んだ。目は開いていた。
「狸寝入りじゃないですか」
「さっき嘘つかれたから、おあいこ」
ぐいと腕を引っ張られて、課長の上に倒れこむ。火照った身体を密着させただけで、下腹部がジンジンした。胸元に顔を押しあて、微かな体臭を深く吸い込む。たまらなくなって自分からキスしてしまった。股間が服の上からでも硬く盛り上がっているのがわかった。
舌を舐め合って唾液をからませた。唇の隙間からいやらしい音が響く。舌に吸いついて恥ずかしいくらい激しく貪った。
大きな左手が腰のラインを愛撫し、尻まで降りてきて優しく撫で回した。
「あ…ん」
スカートをめくりあげ、下着の上から割れ目をなぞる。
「はあっ…あっ…そこ…」
気持ちいい、と言おうとしたが言葉にならなかった。下着をずらしていきなり濡れた肉に直接触れたからだ。
「ああっ…!」
「うそ、なんでこんなに濡れてるの?俺、まだ何にもしてないよ」
指を大きく動かし、わざとピチャピチャと音をたてる。
「あっ、あっ…だって、早く挿れて欲しくて…」
硬くなった股間に手を当て、そそり立った男根を服の上からしごいた。課長が唸るような声をあげる。
「マジかよ…すげー淫乱だな」
返事の代わりに、スウェットのズボンに手をかけて下着ごと脱がせた。真っ赤にいきり立った竿を手で包み込む。
「課長のおちん●んすごく大きくていやらしい…」
先端に小さく溢れた液体を指先ですくい、くるくる円を描くように亀頭を撫で回すと、課長が「ハァ…」と苦しそうに吐息を漏らした。馬乗りになり、ヌルヌルになった陰茎を口に含む。はちきれそうな肉棒を舌でなぞり、唇をすぼませる。
「…やばい、気持ちいい…」
「んんっ…すごい、どんどん硬くなってる…」
喉の奥まで頭を上下に動かすと、陰茎がムクムクと膨らむのがわかる。
「あー…待って待って、これ以上はほんとにやばいから」
慌てて上体を起こし、恥ずかしそうに口の刺激を制した。
「俺にも舐めさせて」
課長が目を細めた。
藍川じゅん
元ピンサロ嬢。アダルト誌にてコラム連載中。著書『大好きだって言ってんじゃん』(メディアファクトリー)が好評発売中。