午後9時。無我夢中で進めていた仕事が片付いた。フロアにはもう誰もいない。
書類の印刷が終わるまでの間、一息つこうと自販機に向かう途中、喫煙室に人影を見つけた。
F課長だった。こちらに背を向けて缶コーヒーを飲んでいるようだが、煙草を吸っている気配はない。そもそもF課長は喫煙者ではないはずだ。
おそるおそるドアを開けてみる。喫煙室に入るのは初めてだった。
「あれ、煙草吸うんだっけ?」
私に気づいたF課長が、振り向き様に聞いた。
「こっちの台詞です。何してるんですか」
「ここ、眺めがいいんだよ」
F課長は、いつもぶっきらぼうな話し方をする。人によっては、嫌われていると勘違いしてしまうだろう。本当は、笑い上戸で人懐こいのに、と少し残念に思う。
「こんな綺麗なのに煙草吸う奴しか楽しめないなんてもったいねーじゃん。誰もいない時たまに見てるの」
F課長の傍らに立つと、ガラス張りの窓に光の海が広がっていた。見慣れた風景のつもりだったが、こうして改めて見ると大小さまざまな宝石の粒が夜景を彩り、別の町のように見えた。
夜景を見るふりして、課長の横顔や喉仏をこっそり盗み見する。切れ長の目も神経質そうな顎も、少し伸びた無精髭さえも素敵だと思った。私はこの男の顔が好きなのだ。
先月、F課長とそういうことがあった。その後も肌を重ねたが、社内ではなるべく目を合わせないようにしていた。
ふいに、課長が指を絡ませた。
「…課長、ここ会社ですよ」
「ごめん、なんか夜景見てたらテンションあがっちゃって」
課長が目がクシャッとさせて笑う。
「Mさん、昼間俺のこと避けてるでしょ?」
「だって、なんか恥ずかしいじゃないですか…」
「そう? あんなに恥ずかしいことしといて?」
少し強めに肩を叩いたが、相変わらず目を細めてニヤニヤしていた。笑った時の顔も大好きなのだ。
たまらなくなって、自分から唇を塞いだ。優しく舌を絡ませ合うと、頭がしびれて何も考えられなくなる。
「んっ…んん」
恥ずかしい液が染みだして下着を湿らせているのが自分でもわかった。
「ん、はぁっ、ねえ…課長」
「ここじゃやだ? ホテル行こうか?」
ううん、と私は笑って首をふった。
「一度やってみたかったことがあるんですけど」
「?」
「コピー機の前でしてみたいな」
その途端、課長は勢いよくハハハと爆笑した。
「馬鹿だなぁ、AVの観すぎだろ!」
クシャクシャの笑顔を見て、私もつられて照れ笑いした。
会議室の鍵をしめると、二人は貪るように激しく唇を求め合った。羞恥と罪悪感で不思議な高揚があった。
「そこ、手をついて」
耳元でF課長が囁く。私は会議室のコピーに手をつき、お尻を突き出した。
課長がお尻好きなことは重々承知だ。シスカートをまくり上げ、腰を艶かしく動かす。濡れたクロッチが丸見えになっていると思うと、恥ずかしさで余計に愛液が溢れた。課長は尻肉を両手で撫で回した。
「はぁ…ん」
丸い肉を揉んだり広げたりするだけで、ぬかるんだ秘孔が音を立てる。
「んん……っ」
課長の指がショーツをなぞり、充血した肉芽を優しく撫でる。
「あっ…あっ…そこ…そこもっと触ってぇ」
「ふふ、布の上からでも膨らんでるのわかるよ」
「あっ、あっ、そこクリクリされるの好き…っ、ああっ」
片手で尻肉を揉みながら、片手で肥大した豆を一定のテンポで擦り続ける。
「あーっ、ダメ…それすぐいっちゃう…そこ弱いの、ダメ、いく、いっちゃう、いくっいく…っ!」
藍川じゅん
元ピンサロ嬢。アダルト誌にてコラム連載中。著書『大好きだって言ってんじゃん』(メディアファクトリー)が好評発売中。