別館の暗い廊下を小走りに進む。
突き当たりの科学室の引き戸に手をかけたが、やっぱり開かなかった。最終下校時刻はとっくに過ぎている。特別室が並ぶ別館は校舎の北側に位置しており、薄気味悪いほどの静けさと寒々しさに包まれていた。
科学室の机に大事なメモ帳を忘れてしまった。慌てて学校へ戻った頃には、陽がすっかり暮れていた。
あのメモには、漫画の構想やラフが書いてあるのだ。何故そんな恥ずかしいものを移動教室の時に持って歩いてしまったのかと自分の迂闊さを恨む。明日、朝のホームルーム前に回収しよう。もし誰かに読まれていたら、と思うと胃がギュッと縮んだ。
重い足取りで冷たい廊下を戻ると、科学準備室からゴトッと確かに大きな音がしたので、慌てて振り返った。
科学の先生がまだいるのかもしれない。準備室の扉に手をかけると、今度は人の声がした。
女の喘ぎ声だった。
「あっ…ああっ…いいっ…」
苦しそうな声と同じリズムでギシ、ギシ、と何かが軋む音がする。
「はああっ、そこ、あっ、すごい…っいいの…」
口の中が一気に乾く。引き戸に手をかけたまま固まっていると、唐突に不自然な静寂が訪れた。引き戸にすりガラスの小窓がついているので、室内の人間が扉の前の人影に気づいたようだった。
ヨロリと扉から離れ、全力で走った。足音を立てないように配慮する余裕はなかった。転がるように夢中で逃げた。
翌朝、ホームルーム前に教員室へ向かい、当直の先生に事情を話して科学室の鍵を借りた。
かじかんだ手で科学室の扉に鍵を差し込んだが、開かなかった。もう一度鍵を入れ直し、反対に回すと、カチャと乾いた音がした。
科学室の鍵は最初から開いていたのだとわかった。何故なら先客がいたからだ。
生徒会長の秦野由香里がコートを着たまま科学室机にもたれ、入口に視線を注いでいた。
その左手に、無印の表紙が見えた。カッと頭が熱くなって足が震える。
「あっ、あの…」
「このノート、君の?」
秦野先輩は背が高く美人で成績もよく、学校行事の度に一言一句完璧なスピーチをする人だった。壇上と同じ笑顔で近づき、メモ帳を手渡してくれた。中を見られたかもしれない、と思うだけで鼻の奥がツンとする。
「昨日も下校時間の後に忘れ物取りに来たよね?」
「……えっ?」
「準備室のドア開けようとしたの、君じゃない?」
どう答えていいのかわからなくて、目が泳ぐ。
「私、あの時準備室でセックスしてたんだ」
はにかんだ先輩の顔を見て、反射的に「この人やっぱり綺麗だな」と思った。女の口からすんなりセックスという単語を聞いたのは、これが初めてだった。
先輩はそっと僕の手を握った。細くて冷たい指だ。
「よかったら、今日の放課後、私と一緒にしない?そのノートに書いてあるようなこと」
やっぱりメモ帳を読まれていた。しかし、そんなことはもはやどうでもよかった。
そのメモ帳に書いてあるのは、普段は優等生なアニメキャラが学校でセックスしまくるエロ漫画のラフだった。
視聴覚室の鍵を閉めると、先輩は部活でも始めるかのような手際の良さで机を4つ正方形に並べて簡易べッドを作った。
水色の柔らかそうなパンツを脱ぎ、並べた机の上に浅く腰かけて足を広げた。薄い陰毛の下の亀裂が鮮やかで、思わず前のめりになる。
「生でおま●こ見るの、初めて?」
頷くと、先輩は「そう、嬉しいな…」と微笑んで自分の指で広げてみせた。
「もっと近くで見て」
先輩の秘部が顔の目の前にくるように膝をついた。甘ったるい不思議な匂いがする。
「このビラビラが、小陰唇っていうの…。ぷっくり膨らんでるのは、君に見られて今すごく興奮してるからなんだよ…」
先輩の細い指が、小陰唇の上にある小さな突起を弄った。ゴクリと喉が鳴る。
「ここが…クリトリス…皮の上から優しく擦ると…すごく気持ちいいの…」
「先輩は…1人で、ここを触ったり、するんですか?」
「うん、ここを誰かに撫でられたり舐められたりするところを、想像しながら、1人で、触っちゃうの…そうすると、この下の穴から、いやらしい液がたくさん出てくるんだよ…」
先輩の息が荒い。僕はおそるおそる顔を近づけ、舌を伸ばした。
「はあっ…あんっ!」
太ももの筋肉がビクッと震える。唇を押し付け、舌の先で肉芽を転がすと、先輩は僕の頭を両手で抑えた。
「ああっ、そう…縦に優しく舐めてみて…ハァッ、あっ…ん、すごい上手……ああんっ」
股間が痛いほど張り詰めていたが、僕は夢中で先輩のクリトリスを舐めた。
藍川じゅん
元ピンサロ嬢。アダルト誌にてコラム連載中。著書『大好きだって言ってんじゃん』(メディアファクトリー)が好評発売中。
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