「お疲れさまです」
みやびちゃんは23歳の少しふっくらしたオンナのコ。肌が白くてきれい。
けれど、みやびちゃんにコンプレックスがある。顔のでこぼこだ。
色白の肌に際立つ吹き出物は、まだ若い彼女の可能性を少しだけ残念なものにしている。
「出が遅くなってすみません」と、送迎車の助手席に乗り込んできたみやびちゃん。
申し訳なさそうに、ペコリペコリと何度も頭を下げた。
「みやび、なにそれ!?」
後部座席。あたしの右隣に座るりょうちゃんが驚いた声で聞いた。
「ん?」
あたしは少し前に乗り出しみやびちゃんを見る。
「ええ!? なにその荷物!」
それはまるで、いま田舎から上京してきたかのような大荷物。
リュックサックとボストンバッグ2個。
「何が入ってるの?」あたしはみやびちゃんに聞いてみる。
別に非難でも何でもなく率直に聞いてみたかった。それだけ。
でも、みやびちゃんは俯いたまま肩を震わせて、急に泣き出してしまった。
大粒の涙が大きな荷物の上に染みをつくる。
「えぇ、ご、ごめん、みやびちゃん。変なこと聞いちゃったね。ごめんね」
あたしは泣き出してしまったみやびちゃんに焦って謝った。
「い、うううう、いえ、ち、ちがうんです、うううっ」
泣き声も交じり声が震えている。何が違うのだろう? なんで泣いているだろう?
大粒の涙を流しながら、力なくみやびちゃんは続ける。
「お客さんが可哀想で……わたし、こんなに騙して、悪くて、悪くて……」
みやびちゃんは泣き続ける。
「騙すって? なんで!? みやびちゃん悪くないよ!お金もらってサービスするのが風俗でしょ、なんで、そこ、泣く必要ないよ!」
あたしは少しきつめの口調で言った。隣に座っているりょうちゃんも、首を縦にコクンコクンと倒す。
あたしは助手席にいるみやびちゃんの頭を優しく撫でながら続けた。
「優し過ぎるんだよみやびちゃんは。風俗は夢を売る仕事なの。デリヘル嬢がお客さんに対して騙しているなんて思ったら、逆に失礼だよ、ね」
ドライバーさんも頷く。
「でも…毎日毎日、呼んでくれるんです…メールも毎日来るし、苦しいです……」
まだデリヘル嬢として経験の浅いみやびちゃんは、風俗の仕事とプライベートの線引きができていなく、
毎日呼ぶお客さんのことをお客さんとして見れなくなっている感じだった。
毎日呼ぶのか。お客さんも毎日呼んでいれば、たぶんいつかは優しいみやびちゃんが根負けし、自分のものになると踏んでいるのかも知れない。情にほだされるデリヘル嬢は続かない。風俗の仕事は身持ちと芯が強固でないと出来ない仕事だ。
みやびちゃんも毎日顔を合わせれば、そこに恋愛感情はないにしても、情は湧くだろう。少なからず。
しかし、その前にお客さんの方もこれ以上毎日は続かないだろう。毎日デリヘル読んでたらお金がかかりすぎる。
「そのうちね、呼ばなくなるよ。だから割り切って仕事してきなよね」
あたしはうつむくみやびちゃんの頬に触れる。頬は涙で濡れていた。あたしはその優しい涙を手のひらで拭い、囁くよう続けた。
「優しさをね、忘れてはいけないけれど、風俗嬢は優しさよりもずるさもないといけないの」
みやびちゃんが顔を上げる。目が真っ赤。マスカラが取れていて、目の下が真っ黒だ。
こんな純粋なデリヘル嬢も珍しいよねまったく。あたしは目を細め、頬を何度もなでた。少しごつごつした肌。
コンプレックスに感じているかも知れないが、それもみやびちゃんの魅力なのかも知れない。
「わぁーん!!」さっきより大きな泣き声は、みやびちゃんの心の中の葛藤。
風俗の仕事は疑似恋愛してなんぼ。みやびちゃんもそのうち慣れて当たり前に接客できるようになる。
そう思う。あたしも、そんなころあったけ。
みやびちゃん、その荷物は何が入っているの?
聞いてみたいけどやめた。少しだけ空いていた黒いリュックサックにお菓子の袋が見えた。ククッとあたしは肩をすくめ笑った。
りょうちゃんはそんなあたしを一瞥し、首を傾げる。
たくさんの荷物はお菓子と夢が詰まっている。きっとそうだ。
デリヘル嬢も普通のオンナのことなんら変わりないのだ。ね、みやびちゃん。
次回は、『キター、花見シーズン到来。お客さんあるある~』デス。
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藤村綾
風俗歴15年。現役デリヘル嬢。風俗ライター。『俺の旅』ミリオン出版にて『風俗珍講座』連載中!日々炯眼な目で人間観察中。