風俗嬢の仕事は、
どんなお客さんにでも愛想をふりまき、嫌な行為を多少されても、自分を押し殺し、時間内に満足をさせることだ。
50分のときもあれば、180分のときもある。
短時間でも、風俗嬢としての仕事内容は裸になるのは変わりないし、時間が短いからって楽なものではない。
50分なんて短い時間でデリヘルの仕事に入ったときなどは、ものすごく焦り、お客さんを射精させられないこともある。
今はもう下火にはなったけれど、新年会などのイベント時期に風俗へ行こう!とノリでやってくる泥酔者が、『50分で』などど、いった時などあたしは行為に及ぶ前から、白旗をあげたくなる。
(む、無理だよぉ……)
ただでさえ、50分だよ。
ましてや、泥酔。あげく、40代後半。あたしは、頭をかかえながら、デリヘル嬢の戦場であるベッドにあがった。
やる気のない、明太子を頬張りながらも、お客さんとしては、短い時間でも風俗でお金を散財したのには変わりないから射精をしたい。
そういう思考が横切るも、お客さんの下半身はその意思には従わない。
あたしは、時計を見計らい、風俗嬢の使命を全うするかのように躍起になり、だらりとしたものを咥えた。
芯のない棹は結局最後まで、頭をもたげることなく、
『ピピピ…………』
無常にも、タイマーが鳴る。
ああ、どうしよ。ダメだ。
あたしは、口の中におさめていた、棹を口から離し、困惑気味にお客さんに伝えた。
『……、あ、じ、時間が、あ、す、すみません』
頬と顎がひどく疲れていた。
手でも扱いたから、腱鞘炎になるかと思うくらいに右腕が痺れる。限界だった。
部屋も寒く、あげくに時間もない。
視界が歪んだ。目からはとめどなく、涙が溢れてきた。
『ご、ごめんなさい』
ズーズーと鼻をすすりながら、あたしは、デリヘルを利用してくれたお客さんに謝罪の言葉を述べた。
『ええ?泣いているの?ええ?』
多少酔いが覚めてきたお客さんが、眉間に皺を寄せながらあたしの顔を覗きこむ。
なんで泣いているのかは、その時は明確にわからなかった。
表面的な事を言えばデリヘル嬢なのにデリヘルの仕事を全う出来なかったってのは大きな理由かもしれない。
けれど、それだけじゃなかった。
このお客さんの前にすでに、4人の前で裸になっていたのだ。
脱いで、着て。脱いで、着て。
寒い脱衣所。
シャワーを浴び、脱衣所に出た瞬間、濡れた身体の体温が一気に奪われ心も体温に寄り添うようにじわじわと冷え切っていく。
あたしは、まるで子どものように嗚咽交じりに声をあげて泣いた。
横にいるお客さんは、こっちこそ、ごめん、ごめんね。抑揚のない声音で謝る。
『もう、いいからさ、シャワーしてきなよ。寒いだろ。な』
なぜか、めちゃくちゃ優しいお客さんだった。
湯のみにインスタントのティーパックを入れ、ポットのお湯を入れている。
『はい。時間もなくって、本当にごめん。これ、飲んで』
裸のあたしは、頭をもたげ、お客さんの手から温かい湯のみを受け取った。
白い湯気が立ち上っている。おもわず、鼻水が垂れた。
『疲れるよな。俺みたいな、酔っ払い相手もあれば。基本、あったばかりなのにそういう行為をするんだからな。』
お客さんは、うなずきながら、あたしに向かって言葉を継いだ。
優しい言葉があとからあとから心に浸み込み、涙となってあたしの目から零れ落ちる。
『わーん、わーん』
時間もないのに、優しい言葉が降ってきて、ますます、あたしの頬を濡らす。
後、3分。
あたしの涙の訳は、本当は心も体もひどく疲れていたからだ。
その事をありありと知らしめたのはお客さんの優しい言葉。
ふとした優しい言葉に泣けるくらい心も身体も疲れているなら、休息が必要。
次回は、『生粋のM』です。
ますます、寒くなって参りました。
風俗バイトに無理は禁物。という、意味を込め、寄稿した次第です♪
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藤村綾
風俗歴15年。現役デリヘル嬢。風俗ライター。『俺の旅』ミリオン出版にて『風俗珍講座』連載中!日々炯眼な目で人間観察中。