「風俗嬢は意外にも出会いがない。
風俗の仕事で出会う男性は出会いとはいえない。
まあ、出会いかもしれないけれど、それは、街ですれ違う感覚に似ている。 なぜなら、もう、会うことはないのだから。(指名をされれば別の話だけれど)
風俗嬢は一体どんな恋をしているのだろう?
恋愛感情が欠落する仕事な上に、男性を尊敬し、心底愛することができるのだろうか?
あたしが従事しているデリヘルの女の子に訊いてみた。
「ん?。正直、恋愛はめんどくさいし、男はいらないや」
「風俗の仕事をしていると、彼氏とか作りにくいよね」
あー、うん、うん。
「風俗嬢だとわかっていたら本気で好きになってくれないだろうし、そもそも出会いがないじゃん」
ああ、全く。おっしゃる通り。
案の定。思った通りの回答にあたしは、二の句を継いだ。
そんな矢先。飲み友達の男性(この人はあたしがデルヘル嬢だとは知らない)が、
「あやちゃん、離婚してさ、さみしいんだろ?」
頬を赤らめ、やや真剣な面持ちで訊いてきた。
「うん、まあ、そう、かなぁ?」言葉を濁しつつ、寂寥感を一応醸し出す。
そんな心配はいらねーな。ゲップがでるほど、咥えてるわー。言えやしない。
が、しかし、咥えることと、恋愛は全く別だし。
なんとなーく、話はそこで終わり、じゃねー、と、その日はあっさり別れた。
数日して、また、メールが。
「紹介したい人と飲んでまーす」
まあ、行ってみるか。重い腰を上げ、いつもの居酒屋に向かう。
「はじめまして」紹介された、男性はあたしのタイプで正直ビックりした。
お客さんではない男性と喋るなんて、何日ぶりだろう?
ふと、不思議な感覚に苛まれる。
「まあ、飲んでよ」
「あ、あたし、車なので、ノンアルで」
仕事が入るかもしれないと思い、スマホを机の上に出しっぱなしではじめまして。と、言い合いながら、杯を交わした。
不思議だった。お客さんではない男性と出会って、飲んでいる(ノンアル)
「俺も離婚したクチでさ、さみしいわけ」
「あー、あたしも、一緒だ」
ケラケラと笑いながら、話は尽きることはなかった。新鮮だった。
《ちゃらんちゃらん》
スマホの着信があった。
目の前の彼が目で出なよ、と訴える。
あたしは、あ、すみません、席を立って、少し離れた場所で電話に出た。
やっぱり仕事だった。
元いた場所に戻ると、なぜか、話題がデリヘルにまつわることになっていて、あたしはぎょっとなった。
なぜなら、紹介された彼から発せられたコトバがキョーレツだったからだ。
「いくらさ、さみしくってもさ、風俗、デリヘルは使わないよ、え?デリヘル嬢?ダメ、ダメ、大嫌い!」
手のひらを顔の前でひらひらさせながら、論外だね。と付け足す。
あたしは、顔をあげられなかった。
あなたの嫌いなデリヘル嬢がここにいますよ。
喉の直ぐそこまで出かかった言葉を飲み込む。
けれど、うまく飲み込むことができず、あたしは、思わず、
「あ、すみません、用事ができたので帰ります」
始終うつむきながら、小さく返すしかできなかった。
「ああ、そうなんだ。また、あえるかな?」
彼が優しい言葉を背中にかけてくれたけれど、あたしは、振り返らず、「さようなら」だけを言って、居酒屋を出た。
風俗嬢であるあたしは、もう、普通に人を好きになれないのでは?
風俗嬢の自分を、どこか嫌悪し卑下している自分が嫌いだ。
仕事だと、割り切っている。
けれど、世の中の男性が皆が皆、風俗を利用するとは、到底思えない。
彼のように、風俗界には全く立ち入らないタイプもいる。
始まりかけていた刹那の恋はたった一時間で終止符を打った。
仕事に行こう。あたしは、デリヘル嬢だ。
次回は、「欲求不満にならないでしょ?」デス。
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藤村綾
風俗歴15年。現役デリヘル嬢。風俗ライター。『俺の旅』ミリオン出版にて『風俗珍講座』連載中!日々炯眼な目で人間観察中。