「き、キスはしてもいいのかなぁ?」
受け身になったあたしを見下ろしながら、薄暗い部屋の中、お客さんがたどたどしい口調で聞いてきた。
え?いいに決まってんじゃん!風俗ですよ。さっき2人でゴロゴロうがいしたじゃん!あたしは首をこくんと縦にふり「いいよ」と短く告げた。
『チュッ』と唇が触れるか、触れないかくらいの軽~いフレンチキスにひどく驚いた。キスって、え?中学生じゃあるまいし。あたしは、お客さんの首に腕を回してこちら側から積極的に舌を入れてディープキスをしてやった。
「うう…」
お客さんの下半身があたしの太ももに当たる。
プレイが終わって、あの『キスしていいの?』の意味を聞いてみた。
「うーん」。お客さんが唸りながら、あのね、と、話し始めた。長くなりそうな気配がしたけど、とりあえずおとなしく聞いてみることにした。
「10日前にデリヘル呼んだの。うーん、まだ20歳前後だったかなぁー、俺、別に年齢問わずだし、顔とかスタイルは二の次。まぁ普通の会話ができて、その時間が楽しめればそれで言いわけ」
「ふーん。それで?」あたしは続きを促す。
「でもねー、まあさ、そのデリヘル嬢がさ、最悪だったわけ」
その日のことを思い出したのか、悲壮感が滲み出ている。まるで思い出したくもないといった感じ。
「最悪って?」あまりにも抽象的でよく分からない。
「それがさ、シャワーは一緒にしたんだけれど、その後ベッドに行って、さあ始めるかとオンナのコにキスをしようとしたらさぁ……」
「え?したら?何?」
「キスはダメ~、って口許を手で隠すわけさ」
「なに? キスはダメって? じゃあ、フェラは? したの?」あたしも負けじと聞き返す。
「それがフェラはしてくれたんだよね」
はぁ?(白目)
「で、オンナのコのあそこを触ろうとしたらさ、今度は、『そこも、ダメ!ついでに下半身は一切触っちゃダメー』っていうじゃない」
「じゃあ、一体、お客さんはどうしたの?」
「結局、興醒めしちゃってさ。何もせずだよ」
うーん。デリヘル嬢という同じ仕事をしている身としては、これは、いかんなぁーと、独りごちるあたしである。
「だから、聞いたんだよね。今日も断られたら、もうデリヘルは卒業しようと思っていたんだよね。よかったよ。あやちゃん、サービスいいんだもん!」
はぁ?っていうか、あたしはデリヘル嬢として当たり前の仕事をしただけなんですがね。腹の中ではそう思ったがあたしは「ははは、ありがとうございます!」と笑顔で応えた。
確かに、『キスは無理~』とか、『触らないで~』とか、ときどき聞くんだけど、基本的なサービスとしてキスは受け入れないといけないかなって。
もちろん、お客さんの方からしてきた場合だけれども。ここで「イヤ」なんて言ったら、お客さんの興奮モードの火種がシュと消えて、チン○が小さくなってしまう恐れがあるので、あたしは、律儀に受けいれます。
もし、本当に嫌だったら、「今日、歯医者に行ってきて、まだ薬の臭いが口の中で充満してるので、キスは今度にしましょうねー」とか、なんとか、体裁よく言って、その場をうまーくなだめましょう。
お客さんをしらけさせないようにうまくあしらうのも風俗嬢の仕事です。高額なお金がかかる風俗遊び。なので、お客さんの意に添えるプレイができるのがベストなんですけどね。あたしもうまく立ち回ることができないときもあります。風俗ってものは奥が深いんですよ。ほんとに。
次回は、「暑い!夏場の風俗嬢の苦難」デス。
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藤村綾
風俗歴15年。現役デリヘル嬢。風俗ライター。『俺の旅』ミリオン出版にて『風俗珍講座』連載中!日々炯眼な目で人間観察中。