風俗の仕事していて、何人もお客さんがついたときに限って、
そういう、お客さんではないオトコと“したい”と思うときがある。
なんだろうか?「もう、いいじゃん。ざんざん触られて」という思考は回っているのだけど、身体はお客さんではない人を求めていたりする。
常に気を使う風俗の仕事に心が疲弊しているから、悲鳴を上げているから、抱きしめて欲しいだけか。
うーん。そうじゃない。本当にしたいのだ。
お金を介さない関係。風俗嬢は性行為の代償がお金である以上、それを超えるような人と出会うのは稀なこと。特別な存在である。
「ねえ…今日…」。女性から誘われて断る男はそういない。
その彼は、あたしの仕事がデリヘル嬢だとは知らない。知ったらショックだろうし軽蔑されるに決まっている。まだ知り合って間もないころ、彼とした後に言われたことが脳裏から消えない。
「フェラ、上手いよね」
彼は一体誰と比べたのだろうか。もし、あたしと同業のデリヘル嬢やほかの風俗嬢だったら、滑稽な話だ。「だってー、好きなんだもん。もっと気持ち良くなってよ」……。
彼とのこの時間だけは、自分が風俗嬢であるということを忘れられる。いくら酷使した下腹部に違和感があっても、そんなことどっかにいってしまうほど。
彼とのセックスはあたしにとっての精神安定剤だ。けれどデリヘルで身に付いてしまったオーバーな演技や過剰なサービス。もしや風俗嬢じゃね?と思わせる振る舞い。
あ、いかんいかん。と思っても、仕事で身についてしまった行動ってのはそう簡単に直らないし、彼としては腑に落ちないことも多々あると思う。
彼は何も言わない。行為が終わって、乱れた呼吸で汗を流しながら、
「おいで」。汗でぐっちょりの胸にあたしは飛び込んでいく。
もしデリヘルのお客さんに汗なんて垂らされた日には、ムッとしてしまうほどなのに。
好きな人とのセックスは風俗嬢にとって、なくてはならないものだと思う。
「えー、お客さんがさ、気持ちよくしてくれるから彼氏とかいらないし」
デリヘルの送迎車で一緒になった女の子が言った。
あたしは首を傾げる。なんでお客さんにされて気持ちいいの? 肉体的にはそういうこともあるかもしれないけど、精神的にはどうなのだろうか? 本気で言っているのだろうか。聞けなかったけど、あたしは違う。
風俗のお客さんは、お客さん。こちらとてプロの風俗嬢。気持ちよくさせるのが仕事なので、自分の悦を得るなんてことはまったくない話だ。
「うそー、お客さんはお客さんでしょ?」
ケラケラと屈託なく笑っているこの子もデリヘル嬢だけど、その目に輝きはない。まあ、あるわけもないか。きっとそう思って割り切らないと、プライドを捨てないと、できない究極のサービス業だから。
風俗嬢は選り好みなく男性客の前で性を吐き出さないといけない。だからこそ、「彼」や「旦那さん」とのセックスを大事にして欲しいと切に望む次第でございます。
次回は『痛い!むかつくお客さん』です。
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藤村綾
風俗歴15年。現役デリヘル嬢。風俗ライター。『俺の旅』ミリオン出版にて『風俗珍講座』連載中!日々炯眼な目で人間観察中。