「ものすごい凝ってますよねー? お仕事は何をされているんですか?」
「え?」
あたしは返答に困った。
ここは、駅前にある『ラクーン』なんてありきたりな店名のマッサージ屋さん。
ちょうど肩から腕にかけてのマッサージの最中に聞かれた。
「仕事はデリヘルです。ええ。風俗嬢です。手コキやり過ぎて腱鞘炎の手前です」
などとは言えるわけがない。、
「普通の事務員(淫)ですよー。パソコンと1日中にらめっこしてますぅ」
その実、にらめっこをしているのは男性の性器です。言えやしない。全く。うんざり。
あー、本当に肩も凝るし、画面の見過ぎで目が痛いしぃー、もう仕事辞めようかな。
なんて、気怠く取り繕うよう付け足す。俗世間の仕事ではないような風俗の仕事。まさか肩凝りになるなんてさ。自虐的に毒づく。
デリヘルとは別にこちらもデリバリー型の風俗エステで掛け持ちしているあたし。その風俗エステつーものは、デリヘルとは違い、風俗だけどお口のサービスがない変わりに、最後のフィニッシュは、ローションを使って手で発射! なのだけれど。うーん。なぜか、すんなりとイッてくれない男性が多いこと多いこと。
オプションにある全裸になっていたら「触ってぇー」と乳を触らせ、少しでも興奮のスパイスを与え、射精しやすくするんだけれど。うーん。それでも、なかなか手強い欲望器官って。
「えー、まだ、出そうにないです?」
上目遣いで聞く。
「あ、さっき出そうになったんだど我慢しちゃってさ。引っ込んじゃったー」
はぁ?おい! イキたいときは自制心など捨ててすんなりとイッてしまえ。
手が痺れまくり、痛くて痛くて泣きそうになる。
右手が疲れてくると左手に替えるタイミングで、結構な割合で「あー、今、出そうだったのにぃー」とか言われる始末。と、手が痛いくだりは序章でした(笑)。
そう!あるお客さんが、まだ潤っていないあたしのアソコに指をズボっと、急に入れて来たんです。、
いつもなら劇団ひまわりの団員になり、うまーい演技をしていれば、濡れてきて堪えられるのですが、なぜかずっとずっと痛い。しかしデリヘル嬢にとって「痛い」は口に出し手はいけない言葉(場が白けてしまうから)。
あたしは、その痛さに堪え、「痛い」と発する変わりに「感じるぅ」などど真反対な単語を口にしたものだから、さー大変。
「そうだろ?ここが、いいんじゃないの?」お客さんはだんだんと強めにしてきて。が、一向に痛さが引かない。むしろ倍増した感じ。
とうとう我慢できなくなって「あのー、本当にすみません。痛いんです」と、本音を口にした。お客さんは、「え?という感じで眉間にしわを寄せながら、
「爪長いかもー」と言い出したので、「え?見せてください」と、あたしはお客さんの指をとり、爪の長さを要確認。
ゲゲッ。爪がめちゃくちゃ長い。
「切って下さい。あたし爪切り持ってますんで」
少し尖った口調でお客さんに言いました。したら、
「えー、俺、爪さ、伸ばしてんの。切りたくないよ」
「……」
おい!デリヘル嬢だって同じ生身の人間、か弱いオンナだよ。そんな長い爪じゃあ傷がついちゃうじゃない。
案の定、ティッシュで拭ったらちょっぴりだけど出血していた。ヒリヒリとするアソコは、あたしのくだらない矜持のせいでもある。
「ごめんねー」と、ちっとも感情のこもっていない謝罪の言葉はあたしを苛立たせる。けれどあたしも悪い。最初にシャワーを浴びるとき、手をおざなりに洗ったのがいけなかったんだ。
きちんと、爪が切ってあるかの確認はしなくてはならないな。と、心底反省しつつ、
「じゃ手で」と、優しい微笑みを投げかけ、やんわりと論した。
ゲゲッ。これまた、手が腱鞘炎になりそうー。と痛いアソコの違和感を噛み締めつつ、あたしは、今日も抜きの旅に出る。以上(笑)。
次回は、「キスはダメ、あれもダメ~」です。
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藤村綾
風俗歴15年。現役デリヘル嬢。風俗ライター。『俺の旅』ミリオン出版にて『風俗珍講座』連載中!日々炯眼な目で人間観察中。